マーシャルアイランドが進める持続可能なオフショア法人の環境

マーシャルアイランドが進める持続可能なオフショア法人の環境

地政学的にアメリカとの強固な関係を持つマーシャルアイランドは、政治的安定性と規制の柔軟性の両立が可能な点で、他のオフショア地域との差別化が図られています。なかでも、マーシャルアイランドは独自の戦略で注目を集めている理由として、マーシャルアイランドは従来よりIBC(国際事業会社)やNRDC(非居住者向け国内法人)といったオフショア制度を提供している点が挙げられます。

先述したNRDCとは、Non-Resident Domestic Corporation(非居住者向け国内法人)の略称で、マーシャルアイランド共和国が提供する法人形態の一つです。これは、同国内において法人登記されながらも、その業務・経済活動をマーシャル国内では一切行わない「非居住者」を対象とした特別な法人構造です。法的位置づけとしては、マーシャルアイランドのBusiness Corporations Act(会社法)に基づき設立され、現地の法律に準拠した国内法人として認定されますが、その実体・運用は「国際的」または「オフショア法人的」なものとなります。国際的な商取引、資産保有、投資目的などに対応できる柔軟な法制度が整備されています。マーシャルアイランドにはIBC(International Business Company)という別のオフショア法人形態も存在します。NRDCとの違いは主に以下の3点です。まず、その目的に違いがあります。IBCは伝統的な「国際事業会社」であり、資産保有や海外取引などを目的とする純粋なオフショア会社です。一方、NRDCはマーシャル国内の「法人」として扱われつつも、その活動を国外に限定することにより、非居住者にとって法的な柔軟性を提供する新たな枠組みです。次に対象ユーザーに違いがあります。IBCは一般的に世界中の個人・法人に利用されますが、NRDCはあくまで非居住者(Non-Resident)を明確に対象としており、米国やアジア諸国の投資家にとって制度的相性が良いとされます。最後に柔軟性に違いがあります。NRDCは、法的には国内法人としてのステータスを持つため、一部の国や機関との取引においてオフショア法人の回避地としては見なされにくいという特徴があります。これは、コンプライアンスや金融機関との関係性を重視する利用者にとって大きな利点です。

NRDCは、特に高い透明性が求められる現代の国際取引において、以下のようなメリットを提供しています。まず税制上の優遇が挙げられます。一定の条件下でマーシャル国内での経済活動がない限り、法人税や源泉徴収税は課されません。次にコンプライアンスのしやすさが挙げられます。OECDやFATFへの対応を進める中でも、NRDCは「国内法人」でありながら柔軟な実務運用が可能で、契約締結においてもスムーズに運用が可能です。次に設立の簡便さが挙げられます。登記手続きはオンラインで完結可能で、株主や取締役に非居住者を指定でき、1名でも設立が可能です。そして、実質的支配者(UBO)の情報は原則非公開でありつつも、必要に応じて当局にのみ提供される形式をとっており、法令遵守と匿名性のバランスが取られています。ただ、NRDCはマーシャル国内での商業活動が一切認められていないため、現地での事業展開を希望する場合には別の法人形態を選ぶ必要があります。

しかし、その一方でマーシャルアイランドをはじめとするタックスヘイブンで設立されたオフショア法人に対する国際的な目は大きく変化しました。特にOECD(経済協力開発機構)とFATF(金融活動作業部会)は、脱税防止とマネーロンダリング対策を強化するため、タックスヘイブンで設立されたオフショア法人に対して厳格な基準を導入しています。OECDは「有害な税制」のリストを公表し、一定の情報開示義務や税情報の自動交換を求めています。FATFは主に金融犯罪への対応を目的として、実質的支配者の特定、資金の出所確認(KYC)、リスクベース・アプローチの導入を各国に求めています。これらの基準に従わない国は、いわゆるブラックリストやグレイリストに掲載され、国際送金や金融取引に重大な支障が生じる可能性があります。また、OECDが策定したCRS(Common Reporting Standard:共通報告基準)は、加盟国間で金融口座情報を自動的に交換する国際基準です。これにより、口座保有者が国外で得た所得や資産を自国に申告せずに隠すことが困難になります。タックスヘイブン利用による脱税を防止するための柱の一つです。マーシャルアイランドは、CRSそのものには正式加盟していないものの、多国間租税情報交換協定(TIEA)や米国とのFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)協定を通じて、一定の情報提供体制を構築しています。そしてタックスヘイブンとして持続可能な環境を整えています。

このような変化に対応していくために自社でその情報を集めることも可能でしょう。ただし、その時間や手間は膨大なものになります。そのためこのような事案を専門とする弁護士や、オフショア法人設立を専門とするサービスプロバイダを採用する事が成功のための一番の近道かもしれません。このような専門の業者は知識が豊富なだけでなく、その変化にも敏感に反応しているからです。

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